日本館に参加したアーティストは、いずれも郊外や過疎地を拠点に活動しています。
土地、文化、流れる時間、仲間...共に「ものを生み出す」こと「暮らしていくこと」の大切なテーマだと考えている、日常の思いを携えることで、LDB23日本館のテーマである「The Future is Rural」にも呼応したいと考え、作品制作を行いました。
また、London Design Biennale 2023が掲げた The Global Game: Remapping Collaborations, という大きなテーマに対して、遠く離れた土地の風土や文化、仲間との結びつき、そして、同じ地域で暮らす仲間、隣人との結びつきから創作が生まれてくる背景を伝えたいと考え、共同制作や交流イベントを実施しました。
長引いた新型コロナの影響を脱し、ようやく平常に国際渡航が可能となり、この間延期になっていたものを含め、予定したフェローシップ・プログラムを順調に完了することができました。
グラント事業において一例を挙げると、ニューヨーク・フェローシップで渡航した萩原雄太氏は、デボラ・ヘイのワークショップやウースター・グループのリハーサルをはじめ、ニューヨークの劇場、公演、ワークショップ、展覧会などを数多く訪れ、また、CUNY大学院センターで日本演劇を研究しているピーター・エッカーソール教授に招かれ、彼の授業に客員研究員のような形で毎週参加し、ポスト演劇をはじめとする最先端の思想を学び、多くのインスピレーションと新たな視点を得ました。また、このフェローシップは、彼にとって生まれて初めてマイノリティとしての生活を経験する機会にもなり、それは彼に「多くの新たな視点をもたらした。フェローシップを通じて 民主主義に対する認識が、社会的・政治的システムから、人間の力のよりダイナミックなプロセスへと変わった。」と語っています。そして、氏は帰国後、このフェローシップで得た情報や視点を共有する活動を積極的におこなっており、日本の演劇人のモチベーションを高めることに貢献しようとしています。
これはまさに、ACCのフェローシップ・プログラムの理想を具現化している事例です。フェローシップ期間中の体験を通じ、個人の視点や思考の変化や成長をもたらすとともに、その後の活動を通じてそれを本国に置いて還元していくことも、国際交流を通じた相互理解の促進に資すると言えます。
また、本年度よりグランティの渡航終了後「グランティ活動報告会」を開催することといたしました。報告会では、事務局スタッフの他、財団理事、選考当時の審査員、次回以降渡航予定のグランティを招き、報告者に画像などを見せていただきながら、活動内容やご体験、ご意見を伺い、質疑応答を行いました。また、支援者にもその内容を伝えるために、オンライン配信も実施いたしました。この報告会はプログラム実施状況やサポートの問題点等を色々な視点から確認することが出来、今後の改善に非常に有効であったと思います。
イベント事業においては、主にファウンディングメンバー向けに、レクチャーやアート作品鑑賞イベントを実施し、ACCの活動を紹介するとともにメンバー同士の交流を深めることが出来ました。
なお、本年はグラント授賞式をファンドレイジング・ディナー内で開催いたしました。本ディナによる収入は財団運営費に充当されるため、本プログラムのイベント事業には含めておらず、グラント授賞式にかかわる費用についても本プログラムに計上していません。
本年は期中に事務局のスタッフが入れ替わる事態となり、グランティへのサポートやアルムナイエンゲージメント、広報活動、メセナを通じたファンドレイジングのプロモーション等が手薄になったことが反省点として挙げられます。グラントプログラムへの質の高い申請者の確保及び幅広いファンドレイジングのためにも、メンバー以外の一般の方向けのパブリックイベント、その他広報活動に今後は注力が必要と感じています。
1)東京タワー文化フェスティバルVII@東京タワー展望台
今年は、ワールドコラボレーションと連日での開催であり、ワールドコラボレーションコンサート(翌日のために配信はなし)とそもそもの東京タワー文化フェスティバルの内容が両方行われる催事となり、当初よりも終了が夜8時までと8時間に及ぶ、充実したフェスティバルとなった。そして、東京タワー文化フェスティバルは世界に配信した。
今年度は、各国とのコラボレーションを、マレーシア、ウズベキスタン、サウジアラビアなどと実施した。東京タワー文化フェスティバルから派生して2023年は多くの海外フェスに招待されたので、その招待された方々に、パネルになっていただく国際交流シンポジウムを実施した。さらに、今年も特別にスタイウエイ社の協力も得ることができ、ピアノを使用した国内外のクラシックから新作までの幅広い作品も演奏された。来場者数は8時間に及ぶイベントであったにもかかわらず常に満席であり、東京タワーも毎年のこのコラボレーションの質が上がっていると大変好評であった。Jcomの取材もあり、2024年3月23日より2週間Jcomの番組で公共タワー文化フェスティバルは放送された。
2)東京タワー文化フェスティバルVII@紀尾井ホールでは、日本からシルクロードをとってヨーロッパまでの音楽旅行を楽しんでもらうプログラムを実施した。韓国、ウズベキスタン、イラン、音楽大学と協力し、海外作曲家と日本在住の各国演奏家と日本の伝統楽器のコラボレーション新作曲を作ることができた。また、海外からの招聘時に日本では国際交流に特化したアンサンブルはないため、CSPC・シルクロード•バンドを作ってプログラムのなかにこのバンド演奏を盛り込んだ。国際交流の実行は、一度では難しく、ある程度固定したメンバーで、このようは交流基盤を作り、来場者にもわかりやすいテーマで実施することはとても重要である。このバンドやシルクロードという分かりやすいテーマで、来場者に、私たちの海外との新コラボレーションも分かりやすくなると思い実施し、来場者からの評判もとてもよかった。
その他の成果
・港区の小中学生50人を招待し、韓国と日本の楽器の説明を紀尾井ホールでコンサートの前にロビーで実施した。子供たちは音楽をホールで聴くだけでなく、間近で直接事前に韓国人からレクチャーをうけたため、海外の初めて見る楽器にも親近感をもって演奏を聴くことができた。
・ウズベキスタンのコーカンドで実施された、国際クラフト展に参加された、畳工芸家や、有田焼、伊万里焼などの方々、各国大使館に協力をいただき、東京タワーや紀尾井ホールで展示会も実施した。来場者は音楽だけでなく、民族楽器や工芸品などから耳だけでなく、目でも海外と日本の文化に触れることができた。
・東京タワー文化フェスティバルVIIはインターネットで現在も継続配信中であり、コラボレーションの再演をいつでも世界中で鑑賞する事ができている。
・東京タワー文化フェスティバル新作初演のいくつかは、出版し、各国の演奏家や音楽大学図書館に寄贈され、再演の素地を構築している。
・2024年4月24日からの国際ダンスフェスティバル(ウズベキスタン ヒバ)に招待をうける。
今年の当フェスティバルでは海外講師4名を招聘し、加えて国際的に活躍する国内講師12名の合計16名の講師陣による多彩なワークショップを展開しました。
北は北海道から南は福岡まで、未就学児から60代までの参加者が全国から集結したのに加え、フランス、カナダ、中国、韓国、香港など海外からの参加者があり、まさに国際的な雰囲気での開催となり、ほとんどのクラスが満員となり大盛況となりました。
今年はスカラー制度での参加者も過去最大の参加者となり、国際的なダンスをダイレクトに学びたい参加者の欲求に応えることができ、全国のダンサーや有識者同士の身体を介した交流を促す意味で本事業は大変有意義なものになったと自負しております。参加者からも次年度への期待の声が寄せられており、今後も国際的なダンスの学び、そして交流の場を継続し日本のダンス育成・普及に貢献してまいります。
活動をしてみて
未だにコロナ禍がもたらした”空白の時間”の影響は大きく、シリーズ再開以来徐々に出席者数は上向いてきてはいるものの、未だ開催者側、出席者側双方に慎重さが存在しているのは否定できず、チケット収入が伸びないのが悩みである。ただ、一年に2回(春・秋の開催)にしかお目にかかれないにも拘らず、続けてご出席くださる常連のお客様たちの当シリーズに向ける温かい思い入れのお心に励まされ、後押しして頂きながら開催させて頂けることに感謝の念でいっぱいである。終演後、レセプションを開いてお客様との交流を図りたい思いが強いが、急ぎ帰路に付かれる方々も多くおられる。残ってくださったお客様たちと少しお話しする機会を持て、若い年代の聴衆も少しずつではあるが増えて来ていることを実感。「誘われて初めて伺いましたがとても素晴らしく楽しいコンサートで、是非に次回も伺います」と言ってくださるお言葉に勇気づけられた。「セレクトして下さる曲目の数々が本当に素敵で心が浄化されるようでした。大津純子さんの心配りを感じます」「美しいメロディーに聴き入り時間が経つのを忘れた・・・」 「お話が楽しく、演奏から伝わってくる大津さんのチャーミングなお人柄に魅了された」などなど、頂いた感想の数々を噛み締めながら、改めて音楽の持つ「包容力」の大きさに感じ入っている。今後のプログラミングに役立てていきたい。
音楽評論家、谷戸基岩氏がご出席くださり、終演後にポリーヌとサン=サーンス、そしてベルリオーズが絡む興味深い逸話をご披露頂いた。また、奥様の小林みどり氏(知られざる女流作曲家たちやポリーヌ・ヴィアルドの研究で有名)のポリーヌに関する新・著書を頂戴し、感激した。谷戸氏から「演奏を聴きながら、やはりヴァイオリンにとってポルタメントはとても重要な、演奏者の自由裁量でなされるべきテクニックなのだと改めて思った・・それが貴女の演奏の艶に貢献しているのですね・・・」というお言葉を拝したことは大きな励みとなった。
<心のコンサート その29>より始めた、日曜日午後3時半の開演時間は総体的に好評である。終演後の明るい時間帯に帰宅できること、また、演奏の余韻を楽しみながら友人たちと代官山ヒルサイド近辺を散策したり、近隣レストランにて早めの夕食を楽しむ事ができる・・・といった好意的なフィードバックを頂いている。
「心のコンサートシリーズ」開始当初より長い年月に亘りスタッフとして協力・尽力してくれている友人たち全員が心ひとつに開催準備に邁進してくれたことが今回の成功の何よりの大きな力となった。関係者一同に心より感謝を捧げたい。