この数年、廃校や空き家など地域の資源を活用した創造活動拠点の創出に取り組んできたことで、高齢化が加速する地域においては、従来の町内会のしくみが崩壊しつつあり、新たな地域コミュニティのあり方を創出する必要があることが分かってきた。アートが地域に入ることですぐに解決に結びつくわけではないが、我々のような地域に根ざした創造活動が継続していくことで、再生、再編への糸口を見出すことはできるのではないかと考えている。しかし、それには時間や手間暇がかかるということを、<作業場>や<たんす>での取り組みから改めて感じている。
<新・福寿荘>と<たんす>では、今年度は新たなにアーティストを招聘してプロジェクトを立ち上げる年でもあったため、リサーチや準備に期間を費やすことが多かった。しかし、このプロセスにおいて、新たな出会いや発見も多く、そのことがクオリティの高い充実した作品・活動へとつながり、ひいては創造的な地域づくりへつながると考えている。また、始動した2つのプロジェクトとも、地域や住民との関わりを拡げながら、アーティスト自身が新たな表現活動に挑戦できているという点で、先鋭的な作品が創作され、そこから派生する副次的効果(地域社会に対して)が生まれる可能性を感じている。
<作業場>についても、作業の充実化と少しずつではあるが活動の定着化を進めることができたので、今後も、より多くの住民や他領域の組織、施設との連携を図れるよう、常設化に向けて活動を継続していきたい。
国外からの参加者が増加し、1名あたりの宿泊数を9泊と仮定した場合、横浜近郊にて国外からの参加者だけでも3,600泊以上の宿泊がなされたと推測でき、横浜の馬車道・関内エリアのホテル・飲食店産業に副次的な効果をもたらすことができたと考えられます。
TPAMフリンジという公募のプログラムでは、21の横浜の会場と16の東京の会場で公演が行われ、一般のお客様も多く参加されるTPAMフリンジを通じて、TPAMの認知度向上はもちろんのこと、横浜・東京にある劇場やスペースの存在や活動が広く認知されることができました。加えて、お客様が横浜に訪れる機会を創出し、観光地という横浜とは異なる側面を知っていただく機会とすることができました。
今回、公的資金だけではなく、民間の助成を受けることで、TPAMの価値に広がりをもたせることができ、また、資金援助をいただくことができたことで、実施を断念することを余儀なくされていた演目を実現させることができました。
<旧今宮小学校>を活用した作業場をつくるプロジェクトの参加者層は、未就学児から80代まで多世代にわたっており、都市部でありながら、住民の高齢化・過疎化が進む地域において、次を担う世代による新たなコミュニティの形成につながっていくと考えている。なかでもコアメンバーの内訳をみると、地域住民(10-20代及び60代以上)が約8割となっており、地域に開かれた創造の場を、地域と共に作っていくという目的を達成しつつあると評価できる。しかしながら、今後も引き続いて近隣の住民に対するアプローチの工夫は必要であると捉えている。
<kioku手芸館「たんす」>は、地域の女性たちを中心とした居場所として定着。アーティストとともにファッションブランドを立ち上げるという新たな挑戦に取り組んだことで、さらに個々の創造性を開花させ、それぞれのスキルや個性を活かした役割の発見や生きがいづくりの創出にもつながっている。今後さらに進む超高齢化社会において、「たんす」のような創造の場は、芸術文化の枠にとどまらず、福祉やまちづくりなど2次的3次的な効果をも生み出す可能性を秘めており、他地域でも汎用できるモデルケースとして、今後もその手法や運営方法の確立に取り組んでいきたい。
<創造活動拠点「新・福寿荘」レジデンス事業>では、2名のアーティストによって西成区の広域に渡るリサーチを行なったことにより、新たなネットワークを生みだすことができ、次年度以降も継承し事業の面的な拡がりにつなげていきたい。
今後の課題としては、長期的視点にたった運営面の基盤整備であり、そのためにも地域に開かれた創造活動拠点の意義を広く伝えていきながら、地域住民・市民によって必要とされ、支えられる公共の場(共有空間)として地域に定着していくしくみづくりが必須であると考える。
<作業場>は、地域のサードプレイスとしての機能を発揮するためにもオープン頻度を上げることが重要ですが、今年度予算が大幅に減少するなか、本助成の採択により回数を減らすことなく、定期的なオープンが可能となりました。
参加者の傾向をみてみると、年齢層が未就学児から80代までと多世代に渡っていること。未就学児から40代までの参加者(地域の未来を担っていくであろう世代)が69%を占めており、現在町会で行われる通常の地域活動に比べると年齢層が若いことが特徴です。また、これまでの活動を通して、地域内外のコアメンバー(<作業場>に年5回以上参加し、事前事後のミーティングにも参加するメンバーのこと)が10名以上にまで増え、子どもスタッフも新たに出現しています。
参加者の居住地域別でみても、西成区住民が67%を占めており、コアメンバーの半数以上が西成区民でもあることから、地域に開かれた創造の場づくりを住民とともに取り組める状況を生み出していると言えます。また、今年度は、新規参加者及びコアメンバーの増加をめざし、地域内での広報活動を特に強化した結果、2017年と比較して区内の新規参加者は139人(前年度+58人)の増加につながりました。[町会回覧板633枚(前年度比+383)、掲示板86件(+51)、店舗等58件(+23)、教育機関5件(+2)]
現状の課題としては、地域へのさらなる浸透を図ることがあげられます。現在実施している回覧や掲示板へのポスター掲示は継続しつつも、情報が届いていない層の洗い出し、新規広報先の開拓や地域コーディネーターの発掘など、効果的な情報発信について検討・改善を行いたいと思います。また新規参加者は増えつつあるものの、継続して参加するコアメンバーの増加にはなかなか至らない点については、今年度の新たな試みとして、作業内容の充実化と参加者へ作業を手渡していくことを目的とし、オープン日に向けた準備日を設け、アーティストが作業準備を実施できる日数を増やしました。次年度以降も引き続き準備日を設けることで、継続参加者、コアメンバーの拡充につなげていきたいと考えます。また、今年度より<旧今宮小学校>の体育館を活用し、恒常的な音の場づくりを行う予定でしたが、体育館の釣り天井撤去工事の遅れにより、活動時期と重なってしまった為、次年度より本格的に取り組んでいく予定です。
地域の課題としては、活動実施エリアである大阪市西成区は、高齢化率が38.7%と市内で最も高く、独居高齢者、空き家率も突出するといった状況下で、地域コミュニティは弱体化・希薄化し、高齢者や子育て層などの社会的孤立が緊急の課題となっています。「ものづくり」を軸とした創造の場の創出により、誰もが立ち寄れる居場所が生まれ、世代や立場を越えての交流や地域のなかに新たなつながりが創発されています。子どもからお年寄り、障がいがある人もない人も、それぞれの個性や潜在力の発見により役割が生まることで、地域の担い手となる人材が増えていくと共に、新たな地域コミュニティの形成が可能となり、地域力の向上につながると考えています。次年度以降も住民のサードプレイスとしての活用を促進し、地域に開かれた創造活動拠点の意義を広く伝えていきながら、地域住民・市民によって必要とされ、支えられる公共の場(共有空間)として地域に定着していくしくみづくりに取り組んでいきたいと考えます。
活動をしてみて
舞台芸術のプロフェッショナルを対象とした舞台芸術のプラットフォーム「国際舞台芸術ミーティング in 横浜 2017」を2017年2月11日から19日に開催し、12演目+1展示の主催公演を実施するほか、公募のプログラムとなるTPAMフリンジでは53団体が参加し、横浜や東京にある38の会場にて様々な公演が実施されました。シンポジウムにおいても、「アジアン・ドラマトゥルク・ネットワーク」や「舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)」などの国内外のネットワーク団体との提携によるシンポジウムを実施いたしました。
今年度は816名(うち海外からは41カ国355名)の舞台芸術のプロフェッショナルの参加と141名の主催演目のアーティスト、計952名の方にご参加いただきました。昨年度の参加登録者数716名に対し、今年度は200名以上増加、プロフェッショナルの参加者数の目標であった750名を大きく上回る方々にご来場いただくことができました。特に海外から350名を超える方々がご来場されました。
一般の方にTPAMの存在を知ってもらうために一部の演目を一般にも広く販売したことで、のべ2,202名の一般参加者にご来場いただくことができました。特に、TPAMの主催演目のひとつであるアピチャッポン・ウィーラセタクン『フィーバー・ルーム』は、観客の過半数以上を一般のお客様が占め、今年度はプロフェッショナル以外の多くの方々にもご来場いただくことができました。
一般のお客様にも多くご来場いただいたことで、TPAMの認知度向上はもちろんのこと、横浜にある劇場やスペースの存在や活動が広く認知されることができました。加えて、横浜に訪れる機会を創出し、観光地という横浜とは異なる側面を知っていただく機会とすることができたと考えています。
また、TPAMの参加者から、国外のフェスティバルや劇場のディレクターから招聘の話がでている、あるいは招聘に躊躇していた団体からTPAMでの公演を見て招聘が正式に決定したとの報告をいただいており、今後活動の場を広め、各地の劇場、フェスティバルとの交流を広める団体が出てくるのではないかと思われます。
今回、SOMPOアートファンドのご助成をいただき、公的資金だけではなく、民間の助成を受けることで、TPAMの価値に広がりをもたせることができました。また、先述のアピチャポン・ウィーラセタクン『フィーバー・ルーム』は、実施予定の演目が急遽キャンセルとなり代わりに招聘した作品で、キャンセルとなった演目よりも上演にかかる経費が高くなることが予想されましたが、今回実施可能と判断できたのは、SOMPOアートファンドからの助成のおかげだと思っております。