解説付き公開リハーサルということで、お客様には初めて練習の様子を字幕解説とセットで見ていただいた。「アレグロ」や「ドルチェ」といった、クラシック音楽に馴染みのない人にとっては難解な専門用語について解説がつくことで、「あまり難しさを感じることなく楽しむことができた」というお声をいただいた。
また、作曲家の意図をどう楽譜から読み取っていくのか、それを奏者同士でどうすり合わせていくのか、そしてそれによって音楽がどう出来上がっていくのか、ということを間近で見てもらうことで、本番で出来上がった演奏を聴くだけでは得られない楽しみを感じていただけた。
このようにクラシック音楽への理解を深めたお客様は、今後演奏会に足を運ぶようになる、というように、ステップを踏んだクラシック音楽ファン層の拡大に貢献できているのではないかと感じている。
ダイアローグの時間では、毎回多くの質問をいただき、関心の高さに驚かされた。練習時間や趣味など、簡単なものから、作曲家の特徴や専門的な奏法上のことまで、質問は多岐に渡った。時にはアーティストが普段意識していないようなことまで質問され、議論になることもあった。
今回は、ロマン派を代表する3人の作曲家による3つのピアノ四重奏曲を取り上げた。3回を通じて聞いてもらうことで、作曲家同士の特徴とそれぞれの作曲家のつながりをより感じてもらえる企画となったのではないかと思う。
今年度は、新型コロナウィルス感染症の影響を受け、変わりゆく状況に対し、会場変更や出演者変更など、企画されていたものから多くの軌道修正が必要となった。しかし、座席数の制限や検温の実施をはじめとする感染症対策を講じたうえで、演奏会を実施することができ、演奏活動の機会が激減していた若手音楽家に学びと演奏の機会を提供することができた。
ご来場いただいたお客様からは、「久しぶりに生で聴くことができて良かった」、「これからもコンサートに通いたい」などの声がアンケートに寄せられ、お客様へ演奏を聴く機会を提供することも、意義のあることだと再確認する機会となった。アンケートからは、「リハーサルも見ていたのでとても興味深かったです。本番での完成度の高さに鳥肌が立ちました。」、「公開リハーサルから歌い方が大きく変わって驚くことばかりです」など、演奏だけでなく演奏家の成長も楽しんでくださっている様子も伺えた。
今年度のシリーズでは、大学在学中の演奏家から既にプロとしての活動をしている演奏家など、様々な背景の若手音楽家が出演していたが、大山平一郎との共演を通し、公開リハーサルでは個々が抱える課題の指摘を受け、それと向き合う時間となった。各公演での対話(ダイアローグ)の時間では、お客様から質問に対して自身の考えを話すことで、若手音楽家にとって言葉でも表現することについても学びとなる時間となった。
このコロナ禍において、今年度の活動は、人と一緒に演奏すること、人に同じ空間で聴いていただけることがどんなに特別なことであるかを実感するところとなった。そういった場の提供が継続できたのには、ご来場くださるお客様や、活動を支えるサポーター、ご支援を賜った寄付者の方々のおかげである。
パイロット企画の公開リハーサルでは、「普段のレッスン」であれば指導が集中するはずの弦楽器奏者への指導が少なく、ピアニストへの指導に熱を帯びる様子にお客様が驚いていた様子で、ピアノは伴奏ではなく「共演者」である、ということを再認識していただくきっかけとなったのではないかと実感した。
本公演では、リハーサルにもご参加いただいた方から「こんなに変わるなんて…!」という感想があり、リハーサルを通じて若手演奏家たちがよりその音楽性を高めた様子をお客様にも感じていただける場となった。
オーディション予選にはMusic Dialogueアーティストにも審査員として参加してもらうことにより、若手演奏家のアーティストにも審査経験を積んでもらう機会となっただけでなく、演奏を聴くことによって自身の演奏を振り返るきっかけや新たな気づきの場となった。
オーディション本選の授章式では、審査委員長を務めた大山平一郎の講評での「音楽演奏とは単に素晴らしい技術を披露するためのものではなく、作曲家が意図したことをくみ取ってそれを最大限に表現(再現)することで聴衆に感動を与えるものです。技術の習得は必須ですが、そこから先の長い道のりが重要なのです」という言葉に参加者が皆、真剣に頷きながら聴いている様子が印象的で、参加者にとって学びを深める機会となった。
残念ながら、奄美文化センターでの恩返し公演は中止、延期となったが、まず朝崎郁恵の生まれ故郷の島である加計呂麻島で、規模は縮小したとはいえ公演をし、また、主要な奄美の協力依頼先候補の方々とお会いすることができ、これからの恩返し公演について説明することもできたので、長い目で見た「恩返しプロジェクト」は順風満帆とは言えないながらゆっくりと滑り出したと言えるだろう。現在は今後の恩返し公演のための準備中である。
活動をしてみて
ディスカバリー・シリーズは演奏家と聴衆の双方に発見や気付きがあるような機会となるように企画をしている。
その中で、若手演奏家には、公演での聴衆との対話の時間(ダイアローグ)で、音楽だけでなく言葉でも自分を表現する機会を提供している。聴衆からの質問に答えることや、自身の音楽についての考え方や自身を取り巻く環境について言葉で発信していくことで、彼らの「音楽家としての意識」に変化が見られている。
それだけでなく、若手演奏家には、演奏会へ向けて団体のFacebookページでメッセージを書いてもらうことにも取り組んでもらっている。ダイアローグで話すことやメッセージを書くことを通して、若手演奏家に言葉での発信の重要性が伝わってきていると感じている。
また、字幕実況付きリハーサルとしてゼロからの音楽づくりの場を公開したことによって、「音楽の知識はないが、大変面白かった」といった意見や「解説がなければ全然分からなかったが、引き込まれて楽しい時間が過ごせた」という意見がアンケートに寄せられた。ここから、今までに音楽や室内楽へ関心を持っていなかった層へもアプローチをし、関心を持ってもらえるような取り組みができているといえる。
ダイアローグについては「芸術的興味をこえて、人材教育にも通じるところがあると感じた」といった声や「演奏家の生の声を聞くことで新しいことを色々と学べた」というような意見もアンケートにあり、音楽のことだけに留まらず色々な面で、お客様にとっての新たな学びの場として機能してきている。
こうした取り組みが認知されてきたことで、リハーサルと演奏会の両方に申し込んでくださる方や再度Music Dialogueの公演に申し込んでくださる方も増えてきている。それだけでなく、Music Dialogueの取り組みや出演アーティストを応援してくださる方も出てきており、演奏家や団体にとって励みになっている。